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「アネット様! 奥様にそういう口をたたくことは……!」
「もしかして、サイラスも篭絡されてしまったの? ふふっ、罪な子ね」
アネット様がサイラスの頬を軽くつつきつつ、そういう。サイラスはその手を振り落としたものの、アネット様は特に気にも留めない。
「この家の使用人は優秀だと思っていたけれど、こんな小娘一人に篭絡されてしまうような愚図の集まりだったのね。……あぁ、期待して損したわ」
ただ淡々と続けられるアネット様の中傷。私のことを悪く言われるのは、この際構わない。けれど、ほかの人を悪く言わないでほしい。そう、強く思って。
「あ、あのっ!」
正直なところ、私はアネット様が怖い。こんなにも露骨に悪意を向けられることに、慣れていないからだ。
お父様やお義母様の悪意には慣れていたから、そこまで思わなかった。エリカの悪意は可愛らしいものだった。
対する、アネット様はどうだろうか。……完全な悪意に満ちていた。
「私のことはお好きにおっしゃってくださいませ……! ですが、みなさまのことを悪く言うのは、許しません……!」
震える声でそう言うと、アネット様は一瞬だけぽかんとしていた。
なのに、すぐにけらけらと笑い始めた。……その笑みは、とても不快だった。
「いい子ぶっているのね。……そりゃあ、みんな篭絡されてしまうわよね」
はぁ。
露骨にため息をついたアネット様は、私に視線を向けてくる。その視線はとても鋭くて、まるで私を刺し殺そうとしているかのよう。
「ギルバートに伝えておきなさい。……私が、この小娘の本性を暴いてあげるって」
アネット様が、私を見下す。彼女の方が背丈が高いのでそれは当然なのだけれど、何となく悔しい。
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