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「奥様……こんなお言葉、気にしないでくださいませ」
近くにいた年若いメイドが、そう言ってくれる。……そう。そうよね。
そう思うのに、胸がもやもやとして、グサグサと傷つけられているような感覚だった。
「それにしても、ギルバートは何をしているのかしら? この私が直々に会いに来てやったというのに……!」
しばらくして、アネット様がそう言いだした。サイラスなんて、人を殺せそうな表情をしている。……あまりにも、横暴だからだろう。
「旦那様は、こちらにいらっしゃいませんよ。……そもそも、あなたさまに会う理由などないでしょう」
「あら、愛し合った元婚約者の出迎えも出来ないの?」
ころころと。人の気に障りそうなほどに甲高い声でアネット様が笑われる。
さすがに、そろそろ誰かアネット様に文句を言いそうだ。そんな空気を肌で感じ取って、私は何とか使用人たちを宥める方法を考える。……しかし、何も出てこない。
(このままだったら、アネット様に言われたい放題だし……)
元々あまり調子のよくない中、こんなことになってしまった。普段の私ならばしっかりと考えられたのに……と思う半面、これでよかったとも思う。だって、もしも普段の調子だったら、アネット様のことを平手打ちしてしまったかもしれないから。
(そうよ。これで、よかったの。私一人が耐えれば、いいのだもの……)
自分自身にそう言い聞かせ、ワンピースの裾をぎゅっと握ったときだった。
私の肩が、ふと誰かに引き寄せられる。その後、そちらに視線を向ければ――。
「……旦那様」
そこには、ほかでもない旦那様がいらっしゃった。
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