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旦那様のお顔を見ると、私は安心してしまった。彼のその怒りを含んだような目が、アネット様を射貫いている。
「まぁ、ギルバート。久しぶりね!」
アネット様が旦那様の方に近づいて来て、その手を取ろうとした。けれど、旦那様はその手をはたき落とす。
「……どういうつもりだ」
そうおっしゃった旦那様のお声は、とても低い。地を這うような低さは、久々に聞いた。旦那様が、本気で怒っていらっしゃるときのお声だ。
「どういうつもりって言われても、ねぇ? 私とギルバートの仲じゃない」
ころころと笑ってアネット様がそう言った。
彼女の目が、私を挑発している。それを理解して、私は唇をぐっとかみしめた。
だけど、そんな私に気が付いてくださったのか、旦那様がその手で私の背中を撫でてくださる。
「俺は、本気で会いたくなかったぞ」
そのお言葉は、信じてもいいのよね?
自分の中の弱い部分が、そんなことを問いかけてくる。……信じてもいい。違う。信じたい。
アネット様と旦那様はなんてことないと、信じていたい。私は、心の底からそう思っている。
「お前の顔を見ると、虫唾が走るんだ。……あの頃のことを、思い出すからな」
「……まぁ、まだ恨んでいるの?」
「当たり前だろう!」
旦那様が声を上げられる。……旦那様は、元婚約者の方に婚約を破棄されて傷ついた。その元婚約者は確かにアネット様なのだ。……恨むのも、仕方がないと思う。私だって、イライジャ様のことをそこそこ恨んでいるもの。
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