2773人が本棚に入れています
本棚に追加
/148ページ
「そんな過去のこと、忘れてしまえばいいのに。……ねぇ、ギルバート?」
アネット様が旦那様の方にまた一歩近づいて、旦那様のお顔を覗きこまれる。その妖艶な姿に、私の心臓が大きく音を鳴らす。……旦那様、この誘惑に勝ってくださるわよね……?
(いいえ、信じましょう。だって、旦那様は私のことを好いてくれているとおっしゃっているもの……!)
正直なところ、上手く信じられるかは微妙なところだ。でも、旦那様ならば大丈夫。
私が彼の衣服をちょんと握っていれば、旦那様とばっちりと視線が合う。……頷いてくださった。
「私ともう一度やり直しましょうっていうお話、していたじゃない」
「……そんなの、初耳だ」
「それに、そんな小娘よりも私の方が貴方を満足させることが出来るわ」
アネット様は、自信満々のご様子だった。……そりゃあ、私はアネット様に比べて貧相かもしれない。
けど、旦那様を想う気持ちは私の方が強いの。間違いなく。
「そういう問題じゃない。俺は、シェリルを愛しているんだ」
「……旦那様」
その宣言が、私の胸の中に染み渡っていく。先ほどまでの不安な気持ちを打ち消すようなお言葉に、私か顔に熱が溜まるのを実感した。
「シェリルはお前と違ってとても素敵な人だ。……お前と比べるのも、おこがましい」
旦那様が、アネット様を強くにらみつけられる。……私のこと、素敵って思ってくださったのね。嬉しい。
(嬉しい、だけど……)
今はそんな感動に浸っている場合ではない。
最初のコメントを投稿しよう!