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そんなことを思っていれば、不意に部屋の扉がノックされた。
「……だれ、かしら?」
きょとんとしてそう声を上げれば、サイラスはやれやれとばかりに肩をすくめていた。どうやら、彼にはやってきた人の正体がわかっているらしかった。
「……どうぞ」
私がいつまで経っても返事をしないためか、サイラスがそう声を発する。そうすれば、部屋の扉がゆっくりと開き――私の夫であるギルバート様、もとい旦那様が顔を見せてくださった。
「旦那、さま?」
「……あぁ、シェリル」
本日はお忙しいと聞いていたのだけれど……。
心の中でそう思っていれば、彼は頭を掻いていらっしゃった。
「いや、たまにはダンスの練習に付き合ってやれと、サイラスに無茶ぶりを……」
旦那様がそうおっしゃると、不意にサイラスが肘を旦那様のお腹に打ち込む。とても、痛そうだった。
「無茶ぶりも何もありませんよ。奥様がこんなにも頑張っていらっしゃるのに、旦那様ときたら……」
「お、俺だって、仕事はきちんと――」
「仕事ばっかりされていても、夫婦関係は良好にはなりませんよ」
……彼のいうことは、正しいのかもしれない。
けれど、私と旦那様の今の夫婦関係はお世辞抜きに良好だと思うし、そこまで無理に時間を作る必要はないと思ってしまった。
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