2775人が本棚に入れています
本棚に追加
/148ページ
アネット様に視線を向ければ、彼女は挑発的に笑っていた。なんだか、不気味だった。
だって、そうじゃない。……旦那様と私のことを、からかっている。そう見えてしまう。
しかし、彼女の言葉には明確な悪意があって、視線にも悪意がある。……ちぐはぐだと思ってしまった。
「まぁまぁ、本当にべた惚れなのね! 噂に聞いていた通りだわ!」
不意に、アネット様がわざとらしく声を張り上げた。その突然の行動に、私たちは目をぱちぱちと瞬かせてしまう。
「でもね、ギルバート。覚えておいた方がいいわ。――その女は、財産目当てだと思うわよ」
にっこりと笑って、口元に手を当てて。アネット様はそう言い切った。……偽りの言葉を、残していた。
「……シェリルは、そんな女じゃない」
「いいえ、だって貴方のような年上の男と結婚するなんて、そうとしか考えられないじゃない。……だから、いつか捨てられることを覚悟しておいた方がいいわよ。あと、捨てちゃってもいいのよ?」
そんな、人をゴミみたいに言わないでほしい。
そう思って私が旦那様の衣服をぎゅっと握っていれば、旦那様は私の手を掴んでくださった。
「悪いが、アネット。……俺とシェリルは、それくらいじゃ別れない」
そして、旦那様ははっきりとそう宣言してくださった。
「俺は、シェリルのことを本気で愛しているんだ。……だから、お前の揺さぶりは通じない」
「……まぁまぁ」
「だから、もう二度と顔を見せるな。お前となど、会いたくもない」
しっかりとアネット様を拒絶された旦那様。……それが嬉しいはずなのに。
どうしてか、私の胸中にはもやもやとしたものが芽生えていた。その正体が何なのか。それを――私は、知る由もない。
最初のコメントを投稿しよう!