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そんな私の気持ちなど知る由もない旦那様とアネット様は、見つめ合っている。いや、見つめ合っているとは言えないか。どちらかと言えば、にらみ合っているというのが正しいのだろうな。
心の中で私がそう思っていれば、アネット様が「ふぅ」と息を吐いた。
「今の貴方とお話ししていても、無駄ね。……とりあえず、帰るわ」
アネット様はそう言うと、踵を返す。驚く使用人たちを他所に、アネット様は一歩を踏み出した。
「あぁ、でも、最後に言っておいてあげるわ」
かと思えば、アネット様は私たちの方に視線を向ける。その目は、まるで何もかもを見透かしているかのようで。
私の心と頭に、ざわめきが生まれた。
「隠し事はほどほどにしておきなさい。そうじゃないと……ねぇ?」
ころころと笑ったアネット様は、そんなお言葉を残すと颯爽と立ち去って行った。
残された私たちは、ただ呆然とアネット様の後ろ姿を見つめる。
そんな中、一番に現実に戻ってきたのは旦那様だった。
「シェリル!」
旦那様が、私の顔を覗き込んでくださる。なので、私はハッとして現実に戻ってきた。……旦那様の目が、不安からなのか揺れている。
「……シェリル、嫌な思いを、したよな」
まるで叱られた大型犬のような仕草を見せつつ、旦那様が項垂れる。
そのため、私はゆるゆると首を横に振った。
「確かに嫌な思いはしました。ですが……大丈夫です」
「……シェリル」
「旦那様が、助けてくださいましたから」
にっこりと笑ってそう告げれば、旦那様が驚いたような表情を浮かべられた。……私の言葉、そんなにも予想外?
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