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「……シェリル、あのな」
「は、い」
「アネットと俺は、別に連絡を取り合っているわけじゃない」
旦那様は神妙な面持ちでそう告げてこられると、私の手を握ってこられた。
ぎゅっと握られた手が、熱い。
「アネットの言っていることは、全部嘘なんだ。偽りなんだ」
「……それ、は」
「どうか、信じてほしい」
私の目をしっかりと見つめて、旦那様がはっきりとそんなお言葉を口にされる。
……そんなこと、おっしゃらなくてもいいの。私は、旦那様のことを信じているから。
――そう、言えたらよかったのに。
「……わか、りました」
私の口は、たったそれだけの言葉を紡ぐことしか出来なかった。
素っ気なくも聞こえる声音でそう返事をすると、旦那様が少し眉を下げられる。
(私は、旦那様のことを信じているわ)
そう思っても、どうしてかそれを口にできない。唇を動かして、自分の気持ちを伝えようとする。でも、はくはくと動くだけで、言葉にはならない。
「……シェリル」
そんな私を見つめて、旦那様はどう思われたのだろうか。ただ、悲しそうな眼差しで私を見つめてこられるだけだ。
(違う。私は、旦那様のことをしっかりと信じている――!)
気持ちは言葉にしないと伝わらない。
それがわかっているので、私が口を動かそうとしたときだった。
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