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「――シェリルっ!」
私の身体が、ゆっくりと傾いていく。その瞬間、周囲に集まっていた使用人たちも慌て始めるのが視界に入った。
「シェリル、大丈夫か?」
旦那様にそう問いかけられ、私はこくんと首を縦に振る。旦那様が受け止めてくださったおかげで、けがはない。
「大方、いつもの魔力不足でしょうね。……至急、奥様の私室を整えてきてください」
「は、はい!」
サイラスがメイドに指示を出しているのが聞こえてくる。
……いつもの、魔力不足。そっか、もうそう思えるほどに――私は、倒れているのか。
(本当に、嫌だなぁ……)
こんな風に倒れて、迷惑をかけることはもう嫌だ。
そう思いつつぎゅっと旦那様の衣服の袖を握れば、旦那様が私に顔を近づけてくださった。
「……わた、し」
「……あぁ」
「なんとか、したい……」
消え入りそうなほど小さな声で、私はそう告げる。もうこんな状態、こりごりだ。だから、私はこの状態を何とかしたい。
――なんとかして、この国の土を守りたい。
「シェリル……」
旦那様が、今にも泣きそうな表情を浮かべられる。その表情を見ていたくなくて、私は目を伏せた。
「……なん、とか……」
私しか何とか出来ないのならば、私が何とかするしかない。
そういう意味を込めて旦那様の衣服の袖をぎゅっと握れば、旦那様は目を瞬かせていらっしゃった。
「……あぁ、そうだな」
そして、しばらくして。そんな風に声を上げてくださる。
「俺は、シェリルの意思を、尊重したい……」
小さく聞こえてくる、そんなお言葉。
「だから――……」
意識が遠のいて、旦那様が何をおっしゃっているのか、もうわからない。ただ、サイラスと共に何かをお話ししているのだけはわかる。
「ですが」
「だが、シェリルが――」
とぎれとぎれに聞こえてくる言葉に、反応を示すことは出来ない。
(……なんとか、しなくちゃ)
このままだと――私は、この王国の土は。どうにか、なってしまうだろうから。
手遅れになる前に――なんとか、しなくちゃ、ならない。
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