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(支え合うことが出来れば、それでいいんだろう)
どちらかが弱っているときに、どちらかが支えれば。そして、その逆も。
もしかしたら、それが理想の夫婦の形なのかもしれない。
シェリルの手が、俺の手を握った。その小さな手が、少しだけ震えている。
「……だから、その、ですね」
「……あぁ」
「私のことを、どうか、忘れないでほしいのです」
声が、震えていた。
「もしも、私がいなくなっても。……どうか、お願いします」
……多分、シェリルはすべてを知っているのだ。この国の現状も、自分の身体のことも。
俺が思うよりもずっと、シェリルはたくましいということなのだろう。
「私に出来ることは、やりたいと思っております。……たとえ、この命に代えても」
そんなこと言わないでくれ。
のどまで出かかった言葉を、俺は飲み込む。
シェリルだって、好きでいなくなるわけじゃない。好きで死んでしまうわけじゃない。
ただ、自分に与えられた役割を全うしようとしているだけだ。……俺も、いい加減覚悟を決めなくちゃならない。
(シェリルを失うのが怖い。だから、何もかもを犠牲にしようとした)
たとえ、それが一時しのぎにしかならないとわかっていても。シェリルを失うよりは、ずっとマシだと思っていた。
彼女が辛い目に遭うくらいならば。俺が、苦労すればいい。そう思っていたのに……。
(その気持ちも、シェリルにはお見通しだったわけか)
それを、悟った。
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