閑話5 唯一、出来ることを(ギルバート視点)

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 だから、俺はふっと口元を緩めて、シェリルの手を握り返す。少しだけ驚いたように、彼女の肩が跳ねた。 「忘れるわけが、ない」  口から自然とそんな言葉が零れた。シェリルが、顔を上げる。……赤くなった目元と、頬を伝う涙。……彼女も、不安なのだろう。 「むしろ、簡単に犠牲になんてしない。……土も、シェリルも。どちらもを助かる方法を、必ず見つける」 「……旦那様」 「だから、そんな弱気なことを言わないでくれ」  弱気なのは、俺のほうなのに。  まるで、シェリルのほうが弱気なように言ってしまった。  後悔するが、言ってしまったことは取り消せない。誤魔化すように視線を逸らせば、シェリルが笑ったのがわかった。 「……そうですね」  しばらくして、彼女がそう言う。その声は、少しだけ明るい。 「私も、頑張って生きなくちゃ」  空いている手を口元に当てて、彼女が笑う。 「それに、もしも旦那様を置いて死んでしまったら……後悔しても、し足りない気がするのです」 「……シェリル」 「私、旦那様と長生きするんです」  シェリルがはっきりとそんな言葉を口にした。  ……俺のほうが先に死ぬ。それは嫌というほどわかっている。でも、今はそれを口にするときじゃない。 「……あぁ」  だから、俺はすべての気持ちを呑み込んで、そう返事をするのが精いっぱいだった。 「いろいろと、頑張りますから」  ふっと緩めた口元が、やたらと愛らしい。……そう思いつつ、俺はシェリルの肩を撫でた。  まだ少し震えている肩が、やたらと小さく感じられる。 (絶対に、守ると決めたんだ)  アネットからも、なにからも。俺は、シェリルを守る。  それが、きっと唯一俺に出来るシェリルへの愛情表現なのだ。……俺は、不器用らしいから。
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