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だから、俺はふっと口元を緩めて、シェリルの手を握り返す。少しだけ驚いたように、彼女の肩が跳ねた。
「忘れるわけが、ない」
口から自然とそんな言葉が零れた。シェリルが、顔を上げる。……赤くなった目元と、頬を伝う涙。……彼女も、不安なのだろう。
「むしろ、簡単に犠牲になんてしない。……土も、シェリルも。どちらもを助かる方法を、必ず見つける」
「……旦那様」
「だから、そんな弱気なことを言わないでくれ」
弱気なのは、俺のほうなのに。
まるで、シェリルのほうが弱気なように言ってしまった。
後悔するが、言ってしまったことは取り消せない。誤魔化すように視線を逸らせば、シェリルが笑ったのがわかった。
「……そうですね」
しばらくして、彼女がそう言う。その声は、少しだけ明るい。
「私も、頑張って生きなくちゃ」
空いている手を口元に当てて、彼女が笑う。
「それに、もしも旦那様を置いて死んでしまったら……後悔しても、し足りない気がするのです」
「……シェリル」
「私、旦那様と長生きするんです」
シェリルがはっきりとそんな言葉を口にした。
……俺のほうが先に死ぬ。それは嫌というほどわかっている。でも、今はそれを口にするときじゃない。
「……あぁ」
だから、俺はすべての気持ちを呑み込んで、そう返事をするのが精いっぱいだった。
「いろいろと、頑張りますから」
ふっと緩めた口元が、やたらと愛らしい。……そう思いつつ、俺はシェリルの肩を撫でた。
まだ少し震えている肩が、やたらと小さく感じられる。
(絶対に、守ると決めたんだ)
アネットからも、なにからも。俺は、シェリルを守る。
それが、きっと唯一俺に出来るシェリルへの愛情表現なのだ。……俺は、不器用らしいから。
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