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「旦那様、照れていらっしゃるんですよ」
「え、そうなの……?」
「はい。素直に奥様と一緒に居たいとおっしゃればいいんですけれどねぇ~!」
マリンの視線がちらりと旦那様に向けられる。……なんだ、私とのダンスのレッスンが嫌なわけじゃないんだ。
(……良かった)
そう思ったら、無意識のうちに胸をなでおろしていた。
もしも、旦那様に嫌われてしまったら――なんて、想像をするとひやりとしてしまうのだ。
それほどまでに、私はこのお方に惚れこんでいる。十五歳も年上のお方だけれど、私にとってはかけがえのない、唯一無二の王子様なのだ。
(なんて、そんなことをお伝えしたら旦那様はとても慌てふためかれるわ。……これは、胸の中に秘めておくべきなのよ)
サイラスに肘を打たれたかと思えば、クレアとマリンに言葉の攻撃を受けていらっしゃる旦那様。
普通の貴族ならば、こういうことをされれば使用人を解雇するのかもしれない。
「ったく、本当にお前らは……!」
けれど、そんな言葉だけを呟かれた旦那様は――何処となく、笑っていらっしゃった。
あぁ、このお方のこういうところ、私は――好きだな。
私はそう強く、実感するのだった。
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