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この映画が始まる前に
あれからもいろいろあったが、なんとか時代の波を超えてこれた。
そうだ。ヒーロー映画から卒業しても、子どもたちは毎月なにかしら映画を観たがっただろう。どんなに忙しくても、決まって毎年春には四人そろって観に行くのが恒例になった。それが子どもたちが成人するまで続くとはなぁ。
子どもたちが就職して、手を離れて、あっという間に感じているよ。
それもこれも、洋子がいてくれたからだよ。
なぁ、洋子。まだ聞こえているかい?
君がもう「たくさん喋ると疲れてしまう」と言うから、僕ばかり長く話してしまったね。
…………。
いや、泣いてなんかいないさ。
君との残りの時間を、泣いて過ごしてしまうなんてもったいなくてね。
でも、だから……だから、どうか今度は君が話してくれ。
……。
これが最期の願いだなんて、そんなことないさ。まだまだこれからたくさん映画を……。
ーー洋子……洋子?
……うん。うん。
無理して話さなくて大丈夫だ。
映画の前に……君の人生を沈黙が支配する前に、一番言いたかったのは僕も同じ言葉なんだ。
君に先に言われてしまったけれどーー
ーー愛しているよ。
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