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出会い
洋子。君と出会ったのは、この映画館の前だったね。
あの頃の僕はまだ見習いの自動車修理工で、歳を重ねてもオイルにまみれて機械いじりをして1日を過ごすものだと思っていたよ。
もともと好きで選んだ仕事だ。誇りをもって働いていたが、いかにも良いところのお嬢さんといったワンピース姿の君とは釣り合わない格好だったな。
僕ら二人がただすれ違うだけの他人ではなく、こうして寄り添って生きてこれたのも、君の自転車が壊れたおかげだよ。
ふふっ、そうだね。僕も驚いた。
自転車に乗って帰ろうとしたときに、いきなりチェーンが外れて転んでしまうなんて。
同じ映画を見ていた観客どうし、なんとなく君の後ろ姿を目で追っていたから、転んだときにあわてて駆けつけた。
ーーいや、ひとつ気恥ずかしくて嘘をついた。
君を目で追っていたのは、なんとなくじゃない。さらさらした黒髪で、凛と背筋を伸ばした君があんまり美しくて……つい目が追っていたのさ。
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