後悔

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後悔

 本当に後悔しているよ。いいや、独立して店を構えたことじゃない。むしろ大口の取引が決まって、店が軌道に乗ってからのことさ。時代の追い風もあって、仕事も従業員も景気良く増えていった。修理だけじゃなく、他の関連事業も始めた。  二人目が生まれたこともあって、洋子は子どもと家事に時間をかけられるようにと、君の店での仕事を他の者に任せたのもその時だ。  こじんまりしていた店は、いつの間にか支店も出して会社となり、僕が顔を知らない社員も増えた。  洋子、君は孤独だったことだろう。二人の子を抱えて、映画などめったに観れなくなっていた。あんなに好きだったのに。  僕はこの映画館の存在さえ思い出さなくなっていた。  毎晩、僕が帰宅するまで起きて待ってくれたのは、心配し話しをしようとしてくれていたからなのに、疲れを理由に何度となく君を一人にした。  家のアルバムには、僕がいない三人の写真ばかりが並んでいたね。  もっと君との時間をもっていたら。  自分の手に負える程度にとどめていたら。  急な不況が襲ってきて、増やした支店は半分になった。従業員の人生を潰すわけにはいかないと、何日も寝ないで金策に走ったが、結局、解雇するしかなかった。当初からよく勤めてくれたあいつが、僕に恨み言一つ言わずに「頑張れよ」と言って去っていったことが堪えた。いっそ罵ってくれたなら……。
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