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「花岡、お前はマネージャーなんだ。アイツらがどうして最近相性が悪いのか……それを本人たちに聞いてみてくれないか?」 「えっ、私がですか?」 「二人の間に何かあったのか? それが分かったら、また私に報告してくれ。もうすぐ決勝戦なんだから、それまでにどうにかしないとヤバいぞ!」 「は、はい。分かりました……」 野球部顧問の吉田先生に頭を下げると、私は職員室を後にした。 オレンジ色の夕焼けが廊下を照らす。その中を歩きながら、確かにこのままだとヤバいなって思ってしまう。この大会で勝たないとダメだ。うちは甲子園を目指す野球の名門校である。高校最後の夏季大会。ここで優勝をしなくちゃいけないのだ。そんなプレッシャーがあるから、あの二人のバッテリーが今ギクシャクしているのではないのか? 顧問の吉田先生は、二人が上手くいかない理由を探れと言ってきたのだ。仲の良い二人だけど、喧嘩ぐらいはするだろうに。でも、二人がこのままだとチームが負けてしまう。 「探れって言われてもね……」 部室の前に来ると、誰かの怒鳴る声が聞こえてきた。私は扉に耳を当てて、中の様子を盗み聞きする。 「最近、お前聞こえない振りしてるよな?」 「……」 「ほらっ、今も」 一方的に喋っているのは、エースの倉橋くんみたいだ。もう一人はバッテリーを組んでいる体格のいい剛田くん? 「お前、二年のアイツとバッテリーを時々組むようになってからだよな。聞こえない振りするようになったの」 「別に、そんな事はない……」 「お前、俺とだけ組んでいる時は違った。ちゃんと俺の話、聞いてくれた……」 え、何? 喧嘩? 倉橋くん、まさか、二年の彼に嫉妬してる? 本当に剛田くんの事、好きなんだから……。   「剛田、俺とアイツ、どっちとバッテリーが組みたいんだよ?!」 おっ! 核心に迫った倉橋くん! 剛田くん、ここはやっぱり、ずっとバッテリーを組んできた倉橋くんを選んで! だったら、チームも優勝するはずよ! 一瞬の沈黙。 剛田くんの心は揺れてる? 「な、悩んでるんだよ……分かんないんだ」 「ど、どういう事だ?!」 「お前とバッテリーを組んでいても、アイツの顔が頭をチラつくんだ。ダメな事だと分かっていても、お前とのバッテリーに集中する事ができない……」 「何だよ、それっ!!」 ガッターン! え、大丈夫? 殴ったりしてない? 私は恐る恐る、中の様子を覗いてみる。 その光景を見て唖然とする。 「バカッ! 俺だけ見てるって言っただろ?」 剛田くんの胸ぐらを掴みながら、涙を流した後、その分厚い胸板に顔を埋める倉橋くん。 え、え、え、 「ごめん、倉橋。お前のストレートに来る気持ちも嬉しいし、アイツのはぐらかすような変化球な気持ちも嬉しいんだ。どっちかなんて、決められない!」 二人の間で揺れる剛田くん。 優柔不断な剛田くん。 なぜかモテモテの剛田くん。 「悩んでるって事は、まだ俺にも気持ちがあるって事だろ? 俺は諦めないからな!」 ブチュッと二人の唇が触れ合う。 暮れなずむ部室に二人だけ。こっちまで赤面するぐらい長くて濃厚なキッスだ。 いつもバッテリーを組んでいる二人が、こんな事してるなんて……私の頭はもうパニックだ。 「やっぱり、お前にしよっかな……」 そんな曖昧な剛田くんの言葉を背中に浴びながら、私は部室を後にする。 駆け出したグランドは、もうすぐ影を落とす寸前まで来ている。 ドキドキが止まらない。 明日、先生にどう話そう? 優柔不断な剛田くんのせいで、今年は優勝できないかもしれない、なんて事を思う私であった。
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