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7〈合宿編-4〉
「さぁ、私たちも行こっか」
「う、うん……」
一番目に肝試しに行ったのは、剛田くんと魚住くんペア。次は倉橋くんと紀香さんペアだ。倉橋くん、すごく不安そうな表情をしてる……うん、分かるよ、分かる。不安よね。あの優柔不断な剛田くんだもん。また浮気するかもって思うよね。私も不安すぎてため息が出そうだもん。
「いってらっしゃーい」
と杉山くんが、目をキラキラさせながら手を振る。
紀香さんは積極的に倉橋くんの腕にギュッと捕まり、二人は暗闇の中へ消えていった。
あの美人な紀香さんに迫られたら、いくら一途な倉橋くんでも靡いちゃうよね?
今、余計に情緒不安定だし。お願いだから、甲子園行くまでは仲良くしていて!
「さぁ、杉山くん! 私たちも行くよ!」
「え、まだ早くない? 二人に追いついちゃうよ」
「いいのよ! 早く行きましょう!」
私は何も考えないで、杉山くんの手を握りしめながら、急いで目的の神社へと向かう。
早くしなきゃ。剛田くんが魚住くんといい感じになっちゃってたら、胸ぐら掴んで怒ってやるんだから!! ぷん、ぷんっ!!
「花岡さん……手まで握っちゃって……そんなに僕と肝試し行きたかったの?」
「へ?」
引っ張らている杉山くんが、ニタニタしながら恥ずかしそうにもじもじしている。
ヤバい……勘違いだよ!
私は手を離し「違うよ」と小走りで走り出す。
「待ってー!」と追いかけてくる杉山くん。
私たちがいい感じになってどうする?!
とりあえず、早く四人に追いつかなくちゃ!
私は急いで神社へと向かったのだった。
「ねぇ、花岡さん。こっちで合ってる?」
「うーん、たぶん合ってると思うけど。なかなか二人に追いつけないね」
「あ、鳥居見えて来たよ」
「あ、本当だ。良かった……」
なんか、どんよりした空気感を段々感じる気がする。少女の幽霊、本当にいるのかな……。
ゾワゾワ鳥肌が立っていく腕が、自然と隣を歩いている筋肉質の腕に絡みついていく……。
「花岡さんったら怖いの? 可愛いね♡僕が守ってあげる」
指を絡ませるように繋がる手と手。鼻の下がびろ〜んと伸びる杉山氏。
「あ、いや。あのさ、杉山くんはどうして野球をやってるの?」
そんな事を言いながら、無理矢理手を離す私。杉山くんがチッ! という舌打ちをすると、しゃべり出した。
「えっとそれは、うち男の三人兄弟なんだけど、僕は二男なんだ。お父さんも兄ちゃんも野球やってて、弟もやってるんだよ。だから、家族で野球をやってるから、やってる感じかな」
「へー、家族で? すごいね」
三人ともみんな坊主なのかな。なんて思いながら、知らない間に神社前に着いていた。すると、鳥居の向こうに倉橋くんと紀香さんの背中を見つける。
ん? 何かを見つめて立ち止まっている様子の2人。
私は近寄って、その見ている方向を見てみる。
そこには、狛犬の像の前でキスをしている人影が。大きめの二つの影が重なり合っている。もう一度、目を凝らして見てみる。
ヤバッ!
剛田くんと魚住くんじゃん!
何、こんなところでキスしてんの?!
倉橋くんに見られてるよ?!
倉橋くんの手から、カラーンと滑り落ちる懐中電灯。
「剛田、やっぱり、お前……」
「賢太郎、私、あなたが好き!」
紀香さんは突然、倉橋くんの胸ぐらを引き寄せ、自分の唇をチュッと押し当てる。
それに気づいた様子の剛田くんが、魚住くんを両手で押し倒し、キスをしている二人の元へ駆け寄って叫ぶ。
「おいっ!! 倉橋、何してんだ?!」
紀香さんから唇を離した倉橋くんは、寄って来た剛田くんの胸ぐらに掴みかかる。
「剛田! お前こそ何してんだよ!! もう、お前の気持ちが分からないよ! この合宿に来てからそいつにふらふらしやがって、やっぱり始めっから俺のことなんて愛してなかったんだな?!」
今日の倉橋くんは泣いてない。本気で怒っている。えらい、えらいよ、倉橋くん。優柔不断男にもっと言ってやれっ!
「あん?! お前こそ、美人のそいつとデキてるんじゃねぇのか? キスまでしやがって! お前こそ、俺のことなんかもう愛してないんだろ?!」
二人は眉を上げた怒った顔で、お互いの事を睨みつけている。その間には憎しみしか感じないように感じる。
もうっ! 何してんの? お互いがお互いを好きすぎてもう、憎しみしかないなんて……。
これは、私がどうにかしなくちゃ!
二人の元へ行こうとする私の手を、再び繋いでくる杉山くん。
「ちょ、今非常に大変なんだよ。杉山くん、離して」
「待って、花岡さん。僕たちもキスしよっか?」
「はぁぁ? な、何言ってんの?!」
早く行かなくちゃ、取り返しのつかないことに……。
「別れようぜ、剛田」
「おう、そうだな」
「このまま、優柔不断なお前とは付き合えない」
「お前はやっぱり、女がいいみたいだからな。別れた方がいいな」
えっ? 別れる?
ちょ、ちょっと、待って!
剛田くんは魚住くんの方へ寄り、手を繋いで一緒に歩いて行ってしまう。
倉橋くんも紀香さんの手を取って、違う方向へと二人で歩いて行く。
え、え、え、
無理矢理キスをしようとする杉山くんを、私は蹴り飛ばし、ヘナヘナとその場に座り込んだ。
倉橋くんと剛田くんが別れた?
バッテリーはどうなるの?
甲子園はどうなるの?
星屑を眺めながら、私の瞳には透明な涙がじわじわと溜まっていく……。
合宿は明日が最終日。
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