序章 処罰の時間

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 (兄さんが交換を受け入れたから……)  英彦(ひでひこ)が婚約者の交換を認めなかったら、もしかしたらなかったことにできたかもしれない。  そんな気持ちを央司(おうじ)は今でも(おさ)えられない。  彼の不満を増幅するように、招待客のささやきが耳に入る。  〝英彦さんは来てないのか……せっかく、付き合いのとっかかりができると思ってたのに〟  〝佳織(かおり)さんのお相手、あの英彦さんでしょ。お似合いよね。見たかったわ。  早く婚約披露してくれないかしら〟  美那にも聞こえているだろうけど、無視らしい。  このパーティに、佳織と英彦は欠席している。  主役の兄姉が欠席だとやっぱり目立つらしい。でも、確認してくる人は誰もいない。  今回の交換劇は、札幌市の経済界にあっという間に広がったからだ。  そして、と言われる二人に対する同情が会場のあちこちから(にじ)みでていて、央司にはいたたまれない。
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