第三章 去った蝶

7/12
前へ
/50ページ
次へ
 ***  高桑邸は生垣で囲まれているから、意外に抜け道がある。  子供の頃の央司(おうじ)は英彦と一緒に、逃亡成功!と、庭から外に出ていったものだ。  兄は忘れただろうけど、央司は今でも入りやすい場所を(おぼ)えている。  タクシーに乗って、実家から少し離れた場所で降りる。  佳織と会うことは認めないと父親に言われたけど、結婚するから大丈夫。  あの時は、妹の妊娠に驚いて、周りの意見に流されただけ。  落ちつけば、仕事仕事の兄よりも、央司のほうがいいと気づいたはず。  でも、彼女は決めたことはきちんと守る。だから、やめたいとは言えないだろう。  それなら、自分が行動すればいい。  央司はそう考えながら、実家の敷地にそっと入り込んだ。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

292人が本棚に入れています
本棚に追加