第三章 去った蝶

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 ***  「その頬は何?」  夕食の席で、央司(おうじ)は美那から(とが)めるように言われた。  左頬には大きなガーゼが()られている。  兄に殴られた可哀想な弟なのに、両親は手当ての後、タクシーを呼んで央司を追いだした。  しかも、父親が立て替えた佳織への慰謝料を支払わないなら、二度と実家に入ることはもちろん、央司の荷物を受け取ることも拒否すると告げてきたのだ。  さすがに一括(いっかつ)で払えとは言われなかったけど、毎月の返済を求められた央司は受けるしかなかった。  アニメーションの新作グッズが手に入らないと思うと、耐えられそうにない。  「転びそうになって電柱にぶつかったんだ」  嘘を言ったけど、美那にはどうでもいいようだ。
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