第三章 去った蝶

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 ***  婚約披露の日は、朝から快晴だった。  皮肉な気分で外を(なが)める。  央司(おうじ)の心は暗闇なのに、天気は逆に澄み渡っている。  その時、季節の終わりを告げるような蝶が、視界の左下から右上に向かって飛んでいった。  札幌ではそろそろ秋も終わるから、今年最後に見る蝶かもしれない。  白くて可愛らしい蝶が飛び去るのを、央司は目を細めて眺めていた。  手を伸ばせば届きそうなのに、決して(つか)まえることができない。  それは、佳織と同じだ。  (どうして、こんなことに……)  央司は、一度右手を伸ばしかけて、力なく落とした。  (誰か、止めてくれてれば……)
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