第三章 去った蝶

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 美那と密会したのは自分だ。それでも、誰かが気づいていたら、という思いが湧くのは止められない。  注意されれば、さすがに美那と会うことはやめて佳織だけと交際しただろう。  そうなっていたら、美那との結婚を強制されなかったし、佳織に軽蔑の視線で見られることもない。さらには英彦に殴られることもなかった。  (どうして、こんな不幸な目に()うんだ……)  英彦に厳しく言われても、思いを変えることはできない。  ぼんやりと外を見る央司(おうじ)の耳に、ドアの向こうからの声が届いた。  「央司さま、車が到着いたしました」  「分かった。すぐ行くから待たせて」  罰でしかない時間がもうじき始まる。  でも、どうしようもできない央司は、少し(うつむ)きながら部屋を出た。  央司を利用した女との婚約を報告する場所へと。  時間が早く過ぎ去ることだけを願いながら、央司は水野家が用意した車に乗り込んだ。                                 おわり
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