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知らない
齋藤一。
最強の二番隊組長永倉新八。
無敵の三番隊組長斎藤一。
そう呼ばれる新選組双璧の一角である。
出身も流派も近藤や土方、沖田とは異なるがその昔、江戸でのいざこざを近藤に助けてもらった時から近藤勇に対して強い恩を感じており、その忠義の厚さは他の隊士より一目抜けていた。
「なあ、小田よ」
彦斎は小田に向きを変えた。
「あれは齋藤一だろ?」
「し、知りません」
「もう敵だから教えてくれないのか?連れないな」
「・・・・・」
それ以上小田は答えなかった、それは本当に知らないからだ。
山崎同様に齋藤も土方に大変重宝されていた。
途中入隊した下級隊士は、常に任務中の斎藤を見た事がない者がほとんどだった。
しかし彦斎は確信していた。
彦斎が意識しなければ躱せないほどの突き技を持ち、なにより単独で行動している。
間違いなく組長級。
と、なれば沖田か斎藤しかいない。
だが、新選組はひた隠しにしているが沖田は病と聞く。
彦斎は抜刀術の構えに入る。砂煙が舞う、しゅーーーーっと彦斎の呼吸の音が変わる。
小田に斬り掛かった時とは段違いの剣気が放たれ、ピシッ、ピシッと乾いた空気がひび割れる。
下野と小田は自分が狙われている訳では無いのに、圧に飲まれ指一本動かせない。
彦斎が本気だったらとっくに2人とも死んでいたんだと思い知らされる。
一方の斎藤は仏頂面で何を考えているか分からない様子。
少なくとも全く彦斎の圧に動じてはいない。
「ふん」
ここにきてようやく一言吐き捨てると、少しだけ眉が動いた。
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