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市中見回り
翌日の晩。
下野と小田、それに茂部と田山という隊士。
合わせて4名は市中見回りに出た。
市中見回りは宿や料亭などを一軒一軒「御用改めである」と声をあげながら店内の様子を伺っていく。
もちろんその役目は死番の小田が務める。
下野は違和感を覚えていた。
小田の様子に緊張感がない。
先日、隊士の一人である鎌瀬狗ノ介は料亭に入るや否や、切りかかられ重傷を負ってしまった。
それくらい今の京都を新選組として外を歩き回る事は、危険極まりない事であるのに、小田の歩様の軽快さときたらどうだ?
まるで自分は襲われる事が無いと確信しているみたいだ。
「どうした貫二郎?」
疑惑の視線に気づいたかどうかは分からないが、小田は長年の恋人に向けるようなまなざしと口調で下野の名を呼ぶ。
「馴れ馴れしい、名で呼ぶな!姓で呼んでくれ」
「なんでさ?おでたちは深いところで繋がった仲だべ」
「なっ⁉やめろ!あの二人に聞こえる!」
「べつにいいでないか」
「勘違いするな、あれはあくまで取引だ」
「あんなによがっどいでよぐ言う」
「うるさい!」
「どうだべ?今宵も帰ったら?」
「ふざけるな!二度とごめんだ」
「ふうん」
そんなやり取りをしているうちに4人は料亭「綾師屋」の前についた。
「ここか」
「んだ、鎌瀬狗ノ介が斬られた店だべ」
そう言いながら小田は躊躇う事無く店に入ろうとする。
「待て!もう少し用心・・・」
「御用改めであるっっっ!おでは新選組の小田鍬ノ助である!!」
下野の制止の声より早く、小田は大声と共に店内に消えた。
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