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うちの学校の軽音部は、ちょっと有名なものであったらしい。ボーカル、ギター、ベース、キーボード、ドラム。男子中学生五人で結成されたそのバンドは、名前を“アオシュン”という。どうやら青春をもじったものらしい。あんまりセンスはないなと思ってしまった。
全体的にイケメンが多いからだろう、ギャラリーにも圧倒的に女子が多い。
「こっちこっち!」
美理亜に呼ばれて、真正面の座席を確保する。音楽室でのミニライブ。お金を取るわけでもなく何かの撮影を行っているわけでもない。それでもバンドのメンバーに気合が入っているのは伝わってくるし、ギャラリーの女子達の熱気も凄まじい。美理亜もまさにそのクチであるようだった。
「アオシュンって、去年一年二組だった男子たちで結成されたバンドでさ!ボーカルの時田君が、みんなでバンドやろうぜーって言って、去年イチから軽音部作っちゃったんだって!自分で歌えて踊れて曲も作れるんだよ、凄くない!?」
「確かに」
ボーカルの時田君、という少年は背がすらりと高く、掘りが深い顔立ちをしていた。良い意味で中学生離れしているというべきか。絵画の中から出てきたような美少年である。そりゃ、女子達が熱狂するのもわからないではない。
私は浮かれたように時田君の方を見つめる美理亜を見て、なるほど、と思った。
――あの子が、美理亜の好きな子なのか。
音楽の授業でリコーダーを演奏した時。さすがの私もイヤーマフをつけるわけにはいかず、美理亜をはじめとしたクラスメートたちの演奏を全て聴く羽目になってしまったのだが。その中でも特に、美理亜の演奏は印象的だった。はっきり言って上手いわけじゃない。でも不思議な熱がこもっていて、音符の欠片がぽんぽんと私の方に甘く飛んでくるような印象だったのである。
誰か好きな人がいる、というのはすぐにわかった。
それが同じクラスの人ではないく、どこか遠い存在であろうということも。なんとなく彼女の心から読みとれた姿はキラキラと輝いていて、しかし私にはまったく見覚えのない少年だったからだ。
彼女が軽音部のライブに行きたがったのは曲が好きというものあったが、そもそもボーカルの時田君が好きだったからというのが大きいらしい。
――恋する乙女か。可愛いな。
この時までは、私はわりと達観していた。イヤーマフをゆっくりと外す。音楽室の喧噪が、わっと耳に雪崩こんでくる。
時田少年が、笑顔でマイクを握った。
「みんなー!今日は来てくれて、ありがとう!」
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