0人が本棚に入れています
本棚に追加
小学2年生の悲劇
「恥」という感情は、人間のみが持ち得る高度なものであるとされていた。
人として恥ずかしく感じる事をしでかした思い出は、誰しもあるだろう。
そんな時、あなたはどうしただろうか?
ーーーーーー
筆者は田舎育ちの中年層である。
通っていた小学校は、登下校の時は制服、学校に到着したら体操服に着替え、特別な事がない限り1日中体操服のまま活動するという文化だった。
給食後、昼休憩があり、授業を再開する前に掃除の時間がある。
この、掃除の時間に悲劇は起きた。
掃除の時間が始まると、机と椅子を全てロッカー側に寄せ、箒と雑巾がけを行う。
箒担当、雑巾担当は、予め決められている。
半面が終わると、今度は全ての机を黒板側に動かして、もう半面にも同様に箒と雑巾がけを行う。
どちらかというと雑巾がけの方が大変だ。
金属製のバケツに水を汲んできて、その水で雑巾をこまめに洗う必要がある。
冬は特に水が冷たくて、男子は「うおっ!冷てぇわ!」などと言い、女子の顔に水で濡れた手をくっつけるなどの蛮行に走るのが恒例だった。
ーーーーーー
その日は、箒係がケンヂくん、モッさんで、雑巾係が筆者、チーさん、タッツンくんだった。
掃除を真面目にやらない男子が2人重なると、進行が遅くなり、先生が登場して怒られるまでが1セットだけれど、この日のメンバーはみんな真面目な性格で、全ての行程が滞りなく進んでいた。
箒が終わり、一斉に雑巾がけをする。
ガキの日常として、「誰が一番速いか」で競争するものだけれど、この日のメンバーはそれにすら興味が無く、淡々としたものだった。
イイ感じの早さで後半面も終わりに近付き、雑巾担当の3人が、バケツを囲んで自分の得物を洗っていたその時だった。
突然...
チー:「あたしじゃない!!あたしじゃないからね!!!」
他の2人を見ながら、叫んだ。
筆者:「え?何?」
タツ:「突然吠えてどうしたん?」
箒担当の2人も驚いてこちらを見ている。
何事かと戸惑わせたその叫びから2秒後、その答えはチーさんの股間から放たれた。
雑巾をバケツで洗うために、通称「うんこ座り」となっていたチーさんの体の下から、液体が広がり始めた。
タツ:「うわっ!なんだこれ!?」
ケン:「これションベンだ!塩分の臭いがする!」
「塩分の臭いってなんやねん」と、大人であったら冷静に考えてしまうものだけれど、小学2年生当時のケンヂくんはなんか賢そうな事を言いたいお年頃だったみたいだ。
お漏らししてしまったチーさんは、目からも静かに液体を流し始めた。
それを見たモッさんは、そんなチーさんに容赦ない言葉を浴びせた。
モッ:「あんたが漏らしたんでしょうが!すぐに自分で拭きなさい!」
モッ:「泣いとる場合じゃないが。自分でやりなさい!」
こういう時は同性の方が容赦ないものだと思う。
タッツンくんはすぐに、床に広がった液体を雑巾で拭き始めた。
筆者もそれに続いた。
汚いと認識しながらも、黙ってすぐ行動するタッツンくんを、なんだかカッコイイと筆者は思い、この時少し尊敬した。
タッツンくんと筆者が雑巾でそれを拭き、バケツで洗い、トイレに行って水を捨てて入れ直し、また床を拭く一連の流れの中、チーさんは同じ姿勢のままひたすら静かに泣き続けた。
当初ビシビシと言葉を投げかけたモッさんは、この時点でもう見放したようで、何も言わなくなり、淡々と掃除を進めていた。
ーーーーーー
掃除の時間の終わり間際、担任教師が様子を見に来る。
そして、チーさんの異変に気が付いた。
担任:「〇〇さん、どうしたの?」
〇〇さんは、チーさんの名字だ。
この時も相変わらず同じ姿勢のまま、本当に静かに泣き続けていた。
担任教師のこの問いにも反応がない。
モッ:「先生、そこでおしっこ漏らしたんです。それから掃除もせずずっと泣いてます。」
モッさんがここでも容赦ない言い方で、担任教師に報告をした。
担任:「あ~、そうだったのね。チーさん、ここでこうしとってもいけんけん、先生と一緒に行こうか。」
担任教師は、優しい声で、今度はチーさんを名前の方で呼び、手を引いてどこかに連れて行こうとした。
どこに行くのか当時は謎だったけれど、今考えるなら、保健室が妥当であろうか。
チーさんは最初は固まったまま動こうとしなかったけれど、手を引っ張られてからは抵抗せず、おずおずと立ち上がり、担任教師と一緒に去って行った。
最初のコメントを投稿しよう!