4

1/3
300人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ

4

「大丈夫ですか?」  振り向くと、昼休みに出会った二年生男子が目の前にいた。 「顔色が悪いですよ。医務室へ行きましょう」  彼は手を差し伸べ、ナターシャを立ち上がらせた。 「ええ……ありがとう」  そのまま彼はナターシャに付き添って中庭から連れ出してくれた。人の目が無くなったことでナターシャは少しホッとした。 「どうします? 医務室へ行きますか? それともあの木立にしますか?」 「身体はどこも悪くないの……人がいない所に行きたいわ」 「じゃあ僕、そこまで一緒に行きます」  歩きながらナターシャはさっきディーンに言われたことを思い返していた。なぜディーンはあんなに怒っていたんだろう? あの目は、怒りと蔑みのこもった目だった。自分は彼をあそこまで怒らせることをしたんだろうか……? 「着きましたよ」  彼に言われてハッと顔を上げると、芝生の上にハンカチが敷いてあった。 「ここに座って下さい」 「あなたのハンカチ? さっきも貸していただいたのに、また使わせてしまうの申し訳ないわ」 「大丈夫ですよ。いつもハンカチは二枚以上持ってます。こういう時に役に立つんだって今日わかりましたよ」  彼は笑って言った。 「ありがとうございます。では遠慮なく」  陽が当たって暖かな芝生にそっと座った。ナターシャの隣に腰掛けた彼は、 「僕、二年のキースといいます。お名前、お聞きしても?」 「私は三年のナターシャ・クライトンです。ナターシャと呼んでいただいて構いません」 「ではナターシャ、今日は二回もあなたの悲しい顔を見てしまったけれど……もし吐き出した方が楽になるなら、僕でよければお聞きしますよ。もちろん、口外などしませんし」 「ありがとう、キース。今はまだ混乱していて、何がどうなってるのかわからないの。昼休みは、失恋して泣いてたんだけど……」 「さっきの二人がその失恋の原因ですか?」 「ええ、まあ、そうなるのかしら。でも私、二人を責めるつもりなんて全く無くて。話を聞くだけのつもりだったのに、何か誤解させちゃったみたい……」  ナターシャの目にジワジワと涙が溢れてきた。どうしてあんなにディーンに嫌われてしまったんだろう。ホリーにも、もしかしたらずっと嫌われていたのかもしれない。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!