300人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
「私、気づかないうちに人を傷付けていたのかな」
ポツリと呟くと、
「他人を傷付けない人間なんていませんよ。あなたは彼女を傷付けていたかもしれないけど、あなたも今、彼女達に傷付けられている。お互い様ですよ」
「お互い様……そうかしら」
「向こうがもう関わらないでくれと言うのなら、それでいいじゃないですか。いつかまた、分かり合える日がくるかもしれません。その時に笑って許せるようになればいい」
(そうね……私の顔を見るのも嫌なのかもしれない。そこまで怒らせた原因を知ることが出来ないのは辛いけど、いつかまた話が出来たらその時……聞かせてもらおう)
「ありがとう。ちょっと楽になったわ」
「ちょっとだけですか」
「ううん、かなり。一人だったらワンワン泣いていたかも」
「泣いてもいいですよ」
「え?」
「ここは誰もいないし、思いっきり泣いたらいい。僕の背中、貸します」
そう言ってキースはクルリと背を向けた。
(やだなあ、優しくされたら涙腺が……)
ナターシャはキースの背中におでこをつけ、しばらく静かに泣いた。涙がこぼれるたびに、辛く惨めな気持ちが減っていくような気がした。
「……グスッ」
(しまった、また鼻が……)
するとキースが後ろに手を回してハンカチを渡してきた。
「まだハンカチ持ってたの……?」
「これでお終いです。使って下さい」
「グスッ、ありがとう……あなたってヘンな人ね……」
ナターシャは鼻をすすりながら笑った。キースがいてくれて良かった、と思った。
「三枚とも、綺麗に洗濯して返すわ」
「いつでもいいですよ。家にはまだたくさんありますから」
「……どれだけ持ってるの」
二人は顔を見合わせて笑い合った。
最初のコメントを投稿しよう!