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ホリーはディーンを奪ってやろうと密かに狙っていた。そしてそのチャンスが昨日、訪れたのだ。
昨日ナターシャはマリアンヌと孤児院慰問のため休みだった。この機会を逃す手はない。
昼休み、ナターシャを探している様子のディーンに声を掛け、話があると誘い出した。
「ディーン、あなたには辛い話かもしれないけれど……ナターシャは、あなたの事をいつも『子供っぽくて恋人にするには頼りない』って言っているわ」
「えっ……本当に?」
「ええ。パートナーの申し込みをされても断るつもりだって。『私のこと好きみたいだけど正直迷惑なのよね』って……」
ディーンはかなりショックを受けているようだ。
「ディーン、こんなこと言ってごめんなさい。でもあなたにはナターシャの本当の姿を知ってもらいたいの。彼女は明るく親切に見せかけているけれど裏では他人の悪口ばかり。私は下位貴族だから仕方なく一緒にいるけれど、いつも威張り散らされて辛い思いをしているわ」
ホリーはお得意の泣き真似をしてみせた。
「そうなのか? そんな風には見えなかった……」
「そう見せないのがナターシャの上手い所なのよ。私は毎日、グズだ、トロい、バカ女と言われて、それが辛くて学校を休みがちになってしまったの」
「ホリー、知らなかったよ。君達は仲良しなんだとずっと思っていた」
「このまま黙って卒業しようかと思っていたんだけれど……あなたには真実を知ってもらいたかった。だって私は、あなたの事を好きになってしまったから」
「えっ……君が僕のことを?」
「私はあなたを子供っぽいなんて思わないわ。とても紳士的で優しそうな人だなってずっと憧れていたの。もしも良かったら……卒業パーティーでパートナーになっていただけないかしら」
顔は伏せてしおらしく、でも上目遣いで甘えた感じを出して。これで上手くいくはず。
「ホリー、ありがとう。君が教えてくれなかったらナターシャに申し込んでしまうところだったよ。もう彼女のことを想うのはやめにする。僕は君のような淑やかな女性を将来の伴侶に選びたい。僕のパートナーになってくれないか?」
(意外と簡単だったわ。ほんとにお子様だこと)
「嬉しいわ、ディーン。ありがとう。明日から、一緒にお昼を食べて下さる? もうナターシャの支配から逃れたいの」
「わかった。迎えに行くよ」
そして今日、約束通りディーンはナターシャの目の前でホリーを連れ出してくれたのだ。きっと、ヒロインを悪役から救い出すヒーローの気分になっていたのだろう。
(午後の授業の時、泣いた後の腫れた目でやってきたナターシャ。ふふ、思い出すといい気分。
放課後の話し合いもわざと中庭でやったのよ。みんなに、私が虐められていると思わせるためにね。ディーンも見事に引っかかってくれたし、ああ、愉快だった。
もう明日からは学校も行かないつもりだし、ナターシャとは縁が切れるわね。卒業まではパーティーの準備だけしていよう。
そうだわ、マリアンヌ様やクラスのみんなにもディーンと同じ事を吹き込んでみようかしら。きっとみんな、私に同情して優しくしてくれるはずだわ)
ホリーは笑いが止まらなかった。
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