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ディーンはいつもと違い、まったくナターシャの顔を見ようとしなかった。そして、
「やあ、ホリー」
と言ったのだ。驚いてホリーの顔を見ると、ホリーは頬を染めてディーンを見つめていた。
「こんにちは、ディーン」
「一緒にお昼を食べないかい?」
「嬉しいわ。でも……」
ホリーがナターシャをチラッと見た。ナターシャは混乱した頭のまま、心にも無いことを口にする。
「ホ、ホリー。私なら大丈夫よ。行ってきたら」
「ありがとう」
ホリーはそう言うとランチの載ったトレーを取り、立ち上がった。ディーンが彼女のトレーを持ってやり、二人で日当たりの良いテラス席に行ってしまった。
遠くの方で仲睦まじく話している二人を見ながら、ナターシャは呆然としていた。
(ホリーもディーンが好きだったのかしら……そしてディーンもホリーのことを。私ったら何も知らなかったのね……)
ランチが喉を通らず、ナターシャは席を立った。あの二人をこれ以上見ていられなかったのだ。
(ダメだ、涙が出そう……どこか人のいない所へ)
中庭を突っ切り、裏庭の木立の中に入った。一見鬱蒼として暗い木立だが、通り抜けた向こうには陽の当たる芝生のスペースがある。
そこまで辿り着くとペタンと座り込み、ハンカチを取り出して一人で涙を流した。
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