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 こんな所までわざわざ走って来たのに、結局泣き顔を人に見られてしまった。そんな自分が可笑しくなって、ナターシャはフッと微笑んだ。 (笑える元気があるなら大丈夫かな……。ディーン……好きだったけど、もう思いを告げることは諦めよう。今更告白するのは自己満足でしかないし、ホリーに悪いもの。二人が幸せならそれでいい)  よし! と声を出して立ち上がり、スカートの芝を叩いて落とした。そろそろ午後の授業が始まる時間だ。  木立を抜けて戻ろうとすると、足元にハンカチが落ちていた。近寄ってみるとハンカチの上にキャンディとメモが置いてあった。 『目を冷やすのにこのハンカチ使って下さい』 (もしかして、さっきの二年生かしら? 目……そういえば、腫れてるかも。ありがたく使わせてもらいましょう)  ナターシャはキャンディの包みを開き、口に放り込んだ。 「……美味しい」  名前も知らない彼の優しさにまた泣けてくる。 裏庭のポンプから水を汲み、冷たい水でハンカチを濡らして目元に当てた。熱くなった目がひんやりとして気持ちがいい。 (教室に戻って、ホリーの隣で普通にしていられるか不安だわ……いっそ、ここでサボってしまおうかしら)  だがそれではきっと、ホリーが気にしてしまうだろう。気を使わせてはいけないと思い、戻ることにした。  始業チャイムギリギリになんとか席に滑り込むと、隣の席のホリーが謝ってきた。 「ごめんね、ナターシャ」  ナターシャは慌てて手を振った。 「ううん、ホリー、私こそ知らずにあなた達の邪魔をしていたことを謝らないといけないわ……ねえ、いつからディーンのこと好きだったの……?」  その時、教師が入ってきて授業が始まったので、この質問には答えをもらえなかった。
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