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全てに嫌気が差していた。親友と呼べるほどの存在はおらず、趣味も無い。仕事が休みの日も、家でゴロゴロしているだけ。薄給で貯金は大して無い。こんな状況で将来に希望など持てるはずもなく、毎日をただ鬱々と過ごしているだけだった。
三十歳にもなって、こんな薄っぺらい人生を過ごしている悲しき男の名は黒岩晃司。派遣社員として働きながら細々と生きている。平凡な人生を嘆く人間の話はよく見聞きするが、平凡ならまだマシだろうと言いたくなる。
そんな人生の迷子真っただ中の晃司は、今日も仕事を終えて帰路についていた。帰宅ラッシュに巻き込まれ、疲弊した身体からさらに体力を奪われる押しくらまんじゅうに耐えながら、暇つぶしにスマホを眺めていた。特に見たいものがあるわけでも、ゲームをやりたいわけでもない。いつも通り、なんとなくネットを眺めるだけのはずだった。
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キャッチ―な画像の上で踊る文字が目に留まった。どうせ下らない広告だろうと思いつつも、晃司はバナーをタップした。画面は一秒足らずで切り替わり、イケメンな青年キャラクターが、ゴーグルのついたヘルメットのようなものを装着した後、二等身のアバターに変わって街を走る画面になった。
バーチャルリアリティゲームか? あんまり興味ないな。
そう思いながらも、どうせ到着までは暇なんだからと、一応は内容を確認してみることにした。
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