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〇月△日
神官と口論になった。ナリカンダラの封印をするか否かで意見が分かれたのだ。封印は、村の長の血を引く者にしかできない。
そして、封印するには生贄を捧げる必要がある。ダラの封印であれば、村人を一人捧げればよい。だが、もう既に他の村民はいないし、仮にいたとしても、ナリカンダラほどの強力な存在を封印するには、長の血が混じった者を捧げねばならない。
そう、つまりは私もしくは娘を生贄に捧げる必要があるのだ。
幼い娘に封印などできるはずもない。となれば、私が封印を行わなければならない。娘を犠牲にして――。
できない。私には……。
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〇月△日
神殿に偶然立ち寄った旅人が、右腕を失くした死体となって発見された。ついに、呪いの影響が村や神殿の関係者以外にも及ぶようになってしまった。
このままでは、世界中の全ての人間がナリカンダラの餌食になってしまいかねない。神官は私に決断を急げと言う。
私に選べというのか。娘か、世界か、どちらをとるのか――。
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〇月△日
神官が死んだ。左腕を失くし、腹を抉られ、恐怖に歪んだ表情で。
とうとう、私と娘の二人だけになってしまった。
もはや、娘を生贄にする理由などない。
このまま一緒に罰を受け、終わりにしてしまおうか。
諦めの感情で満ちた私を、幼い娘が叱りつけた。
自分が良ければそれでいいなんて、ママなら絶対に許さなかった。
みんなのために働くのがパパの仕事でしょ。
私は、パパの役に立つなら何が起きても怖くない。
殺されたみんなのために、あの蛇のお化けを封印しよう。
そう言った娘は、やはり妻の子なのだと思い、私は泣いた。
娘は、自分がどういう運命を辿るのかを理解し、受け入れている。
受け入れられなかったのは、私だけだったのだ。
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