変化

5/8
前へ
/366ページ
次へ
 帰宅早々浴室に向かい、汗と汚れを洗い流す。頭からシャワーを浴びながら、狭い風呂場の壁を伝う湯水を眺める。この家に住み始めた頃は、新生活への期待に溢れ、シャワー中に大声を出して流行りの歌を歌ったものだ。余裕のある生活ではなかったが、普段は自炊をし、たまの贅沢に食べ放題へ行き、当時いた数少ない友人とは毎年呑んだ。  不安はあったが、不満はなかった。  それが、今や何の楽しみもない。最後に笑ったのがいつだったのかも忘れてしまった。このままではダメだと理解しつつ、ではどうすれば良いのかは分からない。前進したいのに、その方法が分からない。こんな調子で、今まで来てしまった。  風呂から上がり、ガシガシと髪を拭く。冷えた麦茶で喉を潤す。節約のために自分で煮出した麦茶だ。コンビニで買い物なんて、もう半年以上していない。考えれば考えるほど、虚しい人生だ。  晃司はスマホを手に取り、例の広告を見返した。やはり、仮想空間内で稼いだ金は本物の金として使えると書いてある。警戒して安全を取るか、信じて怪しげな儲け話に乗るかーーこれまでの晃司なら、間違いなく前者だった。   少ないながらも希望はあり、友人もおり、自分に価値があると思っていたからだ。だが、今の晃司には、守る物が何もない。警戒したところで、何の安全を守るというのか。  晃司の指は、「応募」のボタンを押していた。
/366ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加