変化

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 二週間後の土曜日の朝のことだった。インターホンが連打された。目覚まし時計に叩き起こされることなく、午前中いっぱい布団と愛し合うつもりが、邪魔をされてしまった。出てくるまで鳴らすのを止めなそうな、強い意志を感じるほどの鳴らし方に根負けし、晃司は頭を乱暴に掻きながら玄関に向かった。 「はーい」  玄関を開けた。誰もいなかった。 「あ?」  苛立ちで目が覚めた。人を叩き起こしておいて、いないだと。ふざけているのか。ピンポンダッシュなんて、どこの暇人の仕業だ。ぶつぶつ言いながら玄関を閉めようとした晃司だったが、ドア横に段ボール箱が置かれていることに気づいた。箱の上に『天地無用』のシールと伝票が貼ってあり、確認してみれば晃司宛てのものだった。もしかして、さっきのピンポンは、この荷物を届けに来た業者だったのだろうか。  人の荷物を、勝手に廊下に置いていったのか。  誰かに盗まれたらどうしてくれるんだ、と先ほどとは別の苛立ちを感じ始めた晃司だが、とりあえず荷物を家の中に運ぶことにした。  玄関の扉が閉まった。外廊下の先には、無地の白シャツにブラックスーツ、黒ネクタイにこれまた黒の革靴という、全身真っ黒な装いの男が、姿勢正しく立っていた。 「いってらっしゃいませ。黒岩様」  恭しく一礼すると、男はゆらりと立ち去っていった。
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