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ミモリ様は目を伏せて、腕を組み、深く思案する。
ぼくの体は生まれてからこれまで、ずーっと同一だったわけじゃない。何十年も遊び続けたおもちゃが壊れないはずもなく、故障する度に、ティッサは新しい体を作り上げて、ぼくのための魔法紋を刻んできたんだ。
ぼくを新しい弟子に託し、ぼくという作品を維持する……と、いうことは。ティッサ以外の誰かがぼくという作品に手を加える。そういう意味なんだ。
そして、ぼくはそんなのは、絶対に嫌だった。
「悪いけどね、トイトイ。これは君の気持ちや、君の考えるティッサの気持ちとはまた別の問題をはらむ。君は、ティッサ・ミュアというひとりのおもちゃ職人だった彼女の、人生における最高傑作だろう? そんな『作品』を損失することが正しいとは、そう簡単に認められないよ」
「以前、ミモリ様にご報告しましたよね。ぼくと全く同じトイトイという作品は、ノエリアックに本籍を置くフィオ・アブルアム君の元にもあります。ぼくを損失しても、トイトイという作品はこの世に残りますよ」
「それでは……君は……」
「この後、ティッサの体を火葬してくださるでしょう? その棺の中に、ぼくを一緒に入れていただけないでしょうか」
「……本当に、それでいいのかい?」
「そうしたいのです。心から。……お願いします」
「……そこまで意志が固いのなら、仕方あるまい」
「ありがとう……ございます」
本来、人間と作品の関係は対等じゃない。作者本人が亡くなっても、その後の人間がどう扱うかなんて、作品の方から口出しは許されない。ミモリ様がぼくの気持ちを汲んでそうしてくださるっていうのは、本当にありがたいお話なんだ。
「いくら痛覚などなくたって、意識を保ったまま火葬なんて苦しいだろう? 棺に入る前に魔法紋を傷付けて、意識をなくそうか」
「それも、結構です。ティッサが知った死というものを、ぼくも最後に感じたいですから」
「君というやつは……本当に」
ティッサ達がそういうおもちゃを量産してきたわけだから、ミモリ様にとって「意志を持ち、喋るおもちゃ」なんてもう見慣れている。だからこそ、
「君ほどに意志の固い、制作者ただひとりに尽くすおもちゃは見たことがないよ」
「おもちゃとしては失格ですよね。本来、持ち主の意思で、扱う人が次々と変わるのはぼく達の宿命なのに」
「いや。それは持ち主次第だよ。自分だけのものにしたいと思う人間だっているし、君のその気持ちはきっとティッサにも伝わるだろう」
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