とある職人の遺作

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 自分が不在にしていても、実際におもちゃを一年中作って用意しているのも弟子達だけど。それでも発案者も寄付金もミモリ様から出されたものだから、街の人達は彼女自身こそをサンタクロースだと讃える。ミモリ様がいるからこそ出来ている活動なんだし、それを不満に思う弟子はいないだろう。でも、ミモリ様にとってはちょっと、思うところもあるのかもしれない。 「このお店は最近加わった弟子のひとりにこの状態のまま任せようと思うんだ。トイトイを動かしている魔法も、その体の今後の維持管理も彼に引き継いでもらえるから、安心すると良い」 「その、新しいお弟子さんはティッサの店を引き継ぎたいんですか?」 「どうだろうね。理想を言えば、面識すらない誰かの店をそのまま継ぐよりは、自分でイチから店を起こしたいというのは人情だろう。だが、このミモリ・クリングルの弟子となるならば、指示には従ってもらう。元よりそういう約束だからね」  世界一の大賢者の名の元に、幾ばくかの寄付金と「彼女の弟子である」という確かな名声と地位を得られるんだ。それくらいの要求は何もおかしいことじゃない。だけど……。 「お言葉ですが、ミモリ様……このお店に元からあった設備はもちろん、別なのですが。売れ残った在庫の作品も是非、新しいお弟子さんに管理して欲しい。でも、それ以外の全ては『引き継ぎ』ではなくて……新しいお弟子さんに、ゼロからお店を作り上げていく形でお願い出来ないでしょうか」 「……いいのかい? ティッサは当然、自分が長年に渡って守った店を、そのままの形で誰かに継いで欲しいのではないかと思うのだが」  残念な話なんだけど……いくらティッサがミモリ様の弟子といったって、直接お会いして指導を受けられたのは、この数十年の間にほんの僅かな時間でしかない。必ずしも、ミモリ様がティッサの人となりを理解しているとは言い切れないところがある。もちろん、それを直接、指摘したりはしないよ。ティッサにとってもぼくにとっても、ミモリ様はかけがえのない恩人なのだから。嫌な気持ちにさせてしまいかねない指摘をする必要はない。 「ティッサが店を今の形のまま残したいと思っていたのなら、ぼくにそう言い残してくれたはずです。それに、自分が好きで集めたたくさんの作品だって、手放したりしなかったでしょう。これからもお店で使って欲しいという気持ちがあるのなら、残しておいた方が役立ったはずですから」 「なるほど……それは、君の言う通りかもしれない。では、君の今後については、新しい弟子に任せようか」 「ぼくは、ティッサだけの作品でありたいです」 「……ふむ」
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