とある職人の遺作

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 ミモリ様は人間の流儀通りの葬儀を、ティッサのために取り仕切ってくれた。参列するのはお店のお客さん達。ぼくは棺の中、ティッサの右頬に寄り添う体勢で収まっている。お客さん達にはもうトイトイも自分の意思で意識を失っていると伝えてあるから、棺の中で目を閉じて寝たふりをしているようにと言われていた。  お客さんにとっては、ぼくもティッサに劣らず大切な存在で。そんなぼくが意識を保ったまま火に焼かれるなんて知ったらきっと悲しんだり、引き留めようとしたりする人がいるだろうからって。 「ティッサ……トイトイ……天国でも一緒に、仲良くね」  この声は、オシモトさんかな。結婚されてフィラディノートを出てからは、何回かしかお会いできなかったけど、来てくれたんだ。  天国……死後の世界。確か、彼女の信仰は夢幻竜様だっけ。彼が住まう影の中は死後の世界になっていて、そこを天国って呼んでるんだったかな。本当にあるのかなぁ、そんな世界。  棺の蓋が閉められた。ぼくの家に使っていた木材よりもさらに薄い板で作っていて、外の光を通してくれる。もちろん薄暗いけど、ティッサの顔が見えるくらいにはほの明るくて助かる。  こんなに大事なティッサが死んでしまったのに、ぼくの体は涙を流せない。悲しい気持ちが体の真ん中の奥深くから吐き出せないみたいなこの感じ、苦しかったなぁ。  まもなく、棺の中は赤い炎で包まれた。
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