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トイトイの誕生
「おはよう、トイトイ。あなたが無事に目覚めてくれて、こうしてお話し出来る日が来るなんて。私はとっても嬉しいわ」
ぼくが初めて動いた日、その言葉の通り幸せいっぱいの笑顔で目を細めて、彼女はぼくを見つめていた。その頃から店の内装はほとんど変わっていない。今と同じ大きな作業台の上に立って、ぼくにとっては大きな彼女の顔を見上げていた。女の人に「大きな顔」なんて失礼なのはわかっているけど、あくまで「ぼくにとっては」なんだから許して欲しい。
この世界では魔力を宿した生き物は、瞳か髪のどちらかに色としてそれが現れる。ティッサの髪は黄緑色で、左耳の上あたりに葉っぱの形を模した髪留めをつけている。
このフィラディノートという町はR大陸の王都として栄えているんだけど、外部から攻められても堅牢であるようにと、お城よりも高い壁で四方を囲んでしまっている。人間に住みやすいように宅地開発しすぎた結果、地面の土は良いとして植物がこれっぽっちも生えていない。
ぼくはこの街を出られないから、自然の象徴ともいえる緑色や葉っぱは、ティッサという人が見せてくれるそれしか知らないんだ。
「ティッサはどうしてぼくを作ったの?」
生まれた直後のぼくは、当然、最優先でその質問を彼女に投げかけた。
「自分の勉強した魔法で最初に作るのはあなただって、子供の頃から決めていたの。あなたはね。私だけの、子供の頃からの空想のお友達だったのよ」
そう言って彼女はふる~い画用紙を何枚も出して見せてくれる。大事に保管してあったのはわかるけど、少し色褪せている。
同時に、ぼくの全身が見えるような卓上の鏡を作業台の上に乗せてくれた。その鏡に映るぼくと、ティッサが子供の頃に描いたという絵の人物は、同じ見た目をしている。描いたのも作ったのもどちらも彼女自身なんだから、そうなるのが自然なんだ。
ぼくの肌はティッサの雪のような透明感ある肌色とは違う、薄らとチョコレートみたいな茶色みがあって、甘い物好きなの? って訊いてみた。ティッサ自身は行ったことないけど、G大陸のクラシニアっていう砂漠の都市で生まれたティッサのおばあちゃん。彼女のしてくれた思い出話に出てくる「トイトイ」っていう人が、ぼくのひな形なんだって。というわけでその人と同じ肌の色で、まとっている白くてゆったりとした布一枚を巻いたような服装も、クラシニアの伝統衣装を参考にしたんだとか。
彼女自身の好きなものを詰め込んだ、ぼくという外見も内面も、ぼくはなんだか誇らしかった。自分自身が愛情の塊みたいに思えたんだ。
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