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子供の頃からの夢
午後七時。今日も大きな波乱なく、閉店時間を迎えた。とりあえず、ティッサの夜ご飯の時間……と思いきや。
「ティッサ・ミュアさ~ん、お届けもので~す」
「はいはいはぁ~い、待ってましたぁ!」
配達員さんが荷物を届けてくれると、長い髪を振り乱して扉まで小走りする。毎日欠かさず、子供達のおもちゃを作り続けなければならない作業漬けの暮らしだから、長い髪の毛は本当はティッサはうっとおしいと思っている。でも、魔力の色が髪に現れている人間は、髪を伸ばすというのは暗黙の常識だ。少しでも多くの魔力を髪に蓄えて、魔法に活かさなければならないから。
小さな箱を受け取ると、ご飯を食べることも忘れてその開封作業に夢中になる。これはまた、ぼくが後で釘を刺してあげないと、何も食べないまま夜中になってしまいそう。
今日届いたのは、どこかの港街の灯台を模した木像に、目や手足をくっつけた置物だった。
「ほら、トイトイ! 隣に立って!」
新しいおもちゃが届くと、ティッサは決まってぼくを隣に立たせてひとしきり眺める。そして投げる言葉も毎回のお決まり。
「あぁ~~、うちの子もよその子もかわいいんじゃあぁ~~」
「ティッサ、よだれよだれ」
「おっといけない」
じゅるる、と音を立てて、落っこちそうになっていた雫をすすりあげる。嫌~な音を響かせるけど、今回は布巾で落ちたところを拭かずに済んだから手間が省けて良かった。
「でもいいなぁ。通信販売するってことは、それで元が取れるくらい売れてるってことだもんね」
さっきまで喜んでいたのに、にわかに落ち込んだ顔を見せる。こんなことも珍しくはない。
ティッサの作る、無償で配られるプレゼントは大いに好評だ。でも、この店の展示台に常に置いていある彼女のおもちゃは、たまにしか売れていない。お店の売り上げだって作品が売れるよりも、お店の作業台を借りに来てくれるお客さんの「場所使用量」の方が割合がかなり大きいんだ。
ティッサが気に入って仕入れた他の職人さんの作品を同じ展示台に並べておくと、そっちが先に完売してしまうこともあって。良いと思って仕入れたものが売れるのは嬉しいけど、自分の作品が売れ残っているとティッサはちょっと悲しそうだ。
「ぼくはティッサの作るおもちゃが、他のどの職人さんの作品よりいっちばん大好きだよ?」
慰めるためとかじゃなく、心からそう思うから、ぼくはいつもそう言うんだけど。
「それはたぶん、身内のひいき目ってやつよ」
「身近な人以外が評価してくれないと、ティッサは嬉しくないの?」
「う~ん……どうなのかしら」
何度、同じ問答を繰り返しても、ティッサはいつも「良いとも悪いとも」決めかねているみたいだった。
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