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フルールは待ち望んだ声に一気に表情を明るくした。
そして、彼の出で立ちを見て、緊張をごまかすようにわざとらしく両腕を組んだ。
「……ずいぶんと珍しい恰好ね」
「だろう」
今日のアレクサンドルは神官服ではなく、王子の執務服を着ている。
上着は、黒地に金の刺繍。ローブではなく、張りのあるズボン。
普段下ろしている前髪を後ろへ流して整髪料で整えていると、きりりとした眉のかたちが露わになっている。
(うぅ……まるで別人みたいで緊張する……)
しかし、はやる心は抑えられない。
フルールは部屋の入り口まで走って行き、アレクサンドルに近づく。
彼は大きな木箱を抱えていた。
「いったい、何かしら?」
アレクサンドルはフルールの目線に合わせて両腕を下げた。
中には透明なキューブがたくさん入っていた。
ガラスのようなクリスタルのような素材でできた立方体は、フルールの手でも包み込める小ささだ。
木箱を覗き込んだフルールは、中身を確認してからアレクサンドルを見上げる。
「チャーム?」
「そうだ。父上の誕生祭の催しのひとつで、くじ引きで国民に配布する。聖女の力が込められている幸運のチャームを」
フルールはキューブのひとつを手に取ってみた。
握りしめて力を注ぐイメージを伝えると、透明だったキューブは虹色に輝いた。
「いい出来だ」
受け取ったアレクサンドルが頷く。
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