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半歩後ずさり、両手を僅かに挙げる。
「すまない。しかし、そんな風に声を荒らげなくてもいいだろう」
「……別に、いいけど」
(だって、こんなに身長差があることに今更気づいたんだもの)
フルールは言葉を、本音を飲み込んだ。
(それに、あんなに大きな手のひらだったなんて……)
「しかし、顔が真っ赤だ。熱でもあるのでは? 医者を呼ぼうか」
「大丈夫。大丈夫だから!」
(わたしばかり動転しちゃってばかみたい)
フルールは首を左右に振って、頬を両手で叩いた。
それから、大きく深呼吸。
平静を取り戻したフルールは、アレクサンドルへ満面の笑みを向けた。
「楽しい仕事をありがとう、アレク」
◆
フルールが参加することは叶わずとも、国王の誕生祭は今年も成功を収めたようだった。
賑やかな声を音楽代わりに、フルールは歴史書を読んでいた。
幽閉された彼女にとって読書や裁縫は数少ない楽しみのひとつなのだ。
「ごきげんよう、麗しの聖女殿」
ちょうど1冊読み終わったところで、王子アレクサンドルが訪ねてきた。
フルールは大きく瞬きをする。
「驚いた。あなたにもそんな話し方ができたのね」
「それは、先ほどまでそういう話し方をしていたからだ」
「なるほど」
(つまり、王子のときは王子らしい話し方をしているってこと?)
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