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敢えて尋ねないことにして、フルールはアレクサンドルに向き合った。
すると、アレクサンドルは小さく咳払いをする。
それからすっとグローブを嵌めたままの左手を差し出してきた。
「?」
「『先ほど』の続きで、1曲どうだ?」
「……家庭教師から、ダンスは教わらなかったわ」
「大丈夫だ。私は教えるのも上手だから」
「じゃあ、お願いするわ。優秀な先生」
(どうしよう。アレクと、ダンス!?)
平静を装ってはいるものの、フルールの頭は混乱していた。
なんとかすまし顔を保ってアレクサンドルの手に重ねる。
「曲がなくても、踊れるものなの?」
「基本はステップの繰り返しだ」
引き寄せられ、密着した状態で、アレクサンドルはフルールを導く。
1、2、3。
1、2、3……。
緊張もあってぎこちなかったステップも、やがて、滑らかになっていった。
「飲み込みが早いな」
「優秀な先生が教えてくれているからよ」
「生徒も優秀なんだろう」
踊りながら話せる余裕が出てきた頃合いに、アレクサンドルは話題を変えた。
「誕生祭はここ数年で最大の賑わいを見せた。君のチャームのおかげだ」
「それはよかったわ! またチャームが必要になったら言ってちょうだい。誰かのために祈ってこそ、聖女だもの」
「そうだな。君は、立派な聖女だ」
(アレクに褒められた。うれしい……)
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