「教えないよ」

2/3
前へ
/35ページ
次へ
静かな病室、点滴が落ちる音が聞こえる。 あの事故から約4週間が経った。 一命はとりとめたものの、頭を強く打ってしまっているらしい。 だから、脳の一部が機能しなくなっているらしく、 「この病院では手術はできない」と言われた。 そういう理由で明日、医大の病院に移動させられる。 その病院は受け入れてはくれたものの、 「成功するかは分からない」そう言われた。 それは、言い方を変えれば「失敗するかもしれない」そういう意味だろう。 来月、私は生きていられるのだろうか、、、 『トントン』 そんな事を考えていると、この静かな空気を裂くように扉を叩く音がした。 この時は、親か先生か、看護師の人だろうと思っていた。 でも違った。 扉の先にいたのは今、1番会いたくなくて、1番会いたい人だった。 「はぁ、、、はぁ、、風花、、」 なぜか、息を切らしていた。 多分走ってきたのだろう。 自分から「別れよう」と言い、「もう一緒にいたくない」と言った彼が、なぜ目の前にいるのか分からなかった。 「、、、なんで」 「あの、、移動するって聞いたから。病院、、、」 どうして、彼がこのことを知っているのだろう。 私は、親にしかこのことを言っていないのに。 彼には、知られたくなかったのに。 「なんで、、、知ってるの」 「風花の母さんとさっき会って、教えてもらった」 なんで、そんな余計なことを、、、 そう思った。 私も、お母さんに彼にはこのことを言わないでって言っていなかった。 だって、あんな別れ方をしたのに彼が来てくれるなんて、思ってもいなかったから。 そしたら彼が 「どこに移るの」 そう、いつもの優しい口調で聞いてきた。 彼がこんなことを聞いてくるなんて思ってもいなかった。 あの時、一緒にいたくないって言ったのに。 別れようって言ったのは春じゃん。 何言ってんのって思った。 でも、嬉しかった。 もしかしたら、また彼と戻れるかもしれない。 そう思った。 なのに 「教えないよ」 そう言ってしまった。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加