the 1st drop

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the 1st drop

この人は、誰? 「俺は七代目本郷組若頭の本郷(ほんごう) 香薫(かおる)。俺のことは『旦那さま』と呼ぶように」 「はい、旦那さま」 「君の名前は、『りや』。俺のお嫁さんだ。いいね?」 「お嫁さん?」 「ああ。君は俺のお嫁さんだよ」 「そっか。お嫁さんか」 なんとなく嬉しい。 私は『旦那さま』を見る。 今はスーツを着ている。優しそうなふわっとした笑顔。でも顔立ちはきりっとしている。 ふと、旦那さまは言った。 「怖くないの?」 優しい、聞き心地のよい低音が響く。 「怖くないよ」 私は満面の笑みを返す。 「どうして?」 旦那さまは驚いているみたいだ。 「だって、優しそうだから」 ふふ、そっか、と旦那さまは笑った。 胸がとくっと跳ねた。 知ってる。本郷組とか、シャツの合間から見えるタトゥーとか。たぶん、裏社会の人だ。 でも怖くない。 怖いなんて感情を、私は知らない。 「そうだ、りや、お誕生日おめでとう」 「お誕生日…?」 「ああ。今日はりやが生まれた日だよ。16歳の誕生日」 「お誕生日…」 私は、どうやって生まれたのか、知らない。 16歳っていうけど、目覚める前のことを、私は、知らない。 「今日は、りやが嫁いできたのと、お誕生日とでお祝いしなきゃね」 すこしはしゃぐように、旦那さまは言った。 凄く嬉しそうだった。 つられて私も、嬉しくなった。 「うん!」
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