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「おやすみ、りや」
「おやすみなさい、旦那さま」
ほどなくして、すよすよと規則正しい寝息が聞こえる。
安らかな笑顔。
以前売買の話をしに行ったときには見られなかった笑顔だ。
そう思うと、胸がきゅっと締め付けられる。
その傷だらけの体を、労わってあげたくなる。
白く美しい体に、青い痣がたくさんある。
あのときの瞳には、光などなかった。
瞳の奥が、闇に覆われているようだった。
未だに「幸せ」が何なのかは、わからない。
だが、彼女の生い立ちは、100人に聞けば100人が「幸せとは言えない」と答えるだろう。
不憫でならない。
俺ごときがそう思うべきではないとわかっていても、可哀想に思えてきてしまう。
俺は自己中心だ。
わかっているけど。
初めて見たとき、決めた。
俺は、せめてりやが望む幸せを叶えよう。
りやが今まで受けることのなかった愛を、俺はりやに与え続けよう。
りや、君は「意味のない人間」ではない。
そう教えたい。
「りや」
りやを起こさないように、小声で囁く。
「りや、愛してるよ」
りやのおでこにキスをする。
心なしか、りやが少し笑ったように見えた。
鼓動が跳ねる。
りやの手をぎゅっと握って、俺も寝ることにした。
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