59人が本棚に入れています
本棚に追加
しんと静まりかえった霊光殿の中は、暖かな方丈よりも気温が低く感じられた。 静謐とした二十四の瞳に見つめられ、知らず、背筋が伸びる。
等持院――足利将軍家の菩提所であるこの寺院には、歴代足利将軍の像(ただし五代義量と十四代の義栄は除く)が安置されている。
隣接する立命館大学は、多くの学生が行き交い賑やかだけれど、このお寺は別世界のように静かで、私のお気に入りの場所だった。
念願だった京都の大学に入学した私は、この三年と半年、あちこちの神社仏閣を観光して回った。初めて等持院を訪れ、霊光殿に入った時は、身震いするほど感動したことを覚えている。
じっと佇んでいると、彼らの声が聞こえてくるように感じる。今日はさしずめ、不甲斐ない私を叱責しているといったところだろうか。
小さく溜め息をついた時、
「やっぱりここにいた」
突然、背後から声をかけられ、私はびくっと肩をふるわせた。ぱっと振り向くと、大学の同級生で、私の交際相手でもある三波陽平が、呆れ気味の笑みを浮かべて立っていた。
「三波君」
「待ち合わせ場所に行っても、いいひんのやもん」
「えっ? もうそんな時間だった?」
私は慌てて腕時計を見た。時刻は十四時を回っている。
今日は、びわこくさつキャンパスに通う三波君が、久しぶりに衣笠キャンパスに来るというので、会おうと約束をしていたのだ。
「ごめん。ぼんやりしてた」
「ええよ。談話室とか食堂とか探しても見つからへんかったし、たぶんここやろと思って来てみてん。予想的中」
「三波君、勘がいいね」
「坂木はほんまにここが好きやもんなぁ」
「うん。なんだかね、ここに来ると、ちゃんとしなきゃって気持ちになるの」
「足利将軍に発破かけられる感じ?」
「そんなとこ」
私は足利将軍たちの前から離れると、三波君のそばへ近づいた。三波君が先に霊光殿を出て、私もその後に続く。
最初のコメントを投稿しよう!