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方丈の廊下は、秋の日差しで温められている。きゅっきゅっと音の鳴るうぐいす張りの廊下を歩き、私たちは適当なところで腰を下ろした。
「めっちゃあったかい」
「南向きだからね」
霊光殿で感じていた緊張感が、ゆるゆるとほどけていくようだ。
私たちはしばらくの間、黙って、枯山水の庭を見つめた。
眠たくなるような心地よさを感じていると、三波君が口を開いた。
「何か悩み事でもあるん?」
「……あはは、わかる?」
苦笑いを浮かべると、三波君は真面目な表情で、
「わかる」
と、答えた。
「坂木が一人でここに来るのって、弱ってる時が多いし」
さすが、彼氏。私のことをよくわかっている。
「相談でも愚痴でも聞くで」
私は少し考えた後、お言葉に甘えることにした。
「実は、また面接に落ちた。二次まで行ってたんだけど。いい感触だったから、今度こそ決められるかなって思ってたんだけどな」
春頃から始めた就職活動。まったく振るわないままに、気が付けば秋を迎えていた。十月ともなれば、回りの友人たちは、ほとんど内定をもらっている。仲間内で、いまだぐずぐずと就職先を決められないでいるのは、私だけだ。
「……私、社会に必要のない人間なのかなぁ」
「そんなことはないと思うけど。今、就職氷河期って言われてるし」
今年の四回生は運が悪い。けれど、運のせいにばかりもしていられない。実際、友人たちは、きちんと内定を勝ち取っているのだから。
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