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第3話 失敗
翌日―
今日から私は姉とジェイクの婚約を破棄する為、プランBを実行する事にした。
今朝は姉に適当な言い訳をして、いつもよりも早めに学校へ着いた私は正門の陰に隠れてある人物がやってくるのを待ち構えていた。少し待っているとまばらに通学してくる生徒たちにまぎれて私はついに目標の人物を見つけた。
よしっ!発見!
「おはようございますっ!チャーリー様っ!」
私はその人物の前に飛び出すと、笑みを浮かべた。
「うわあっ!き、君はリリアンの妹の……」
「はい、ルチアです。チャーリー様」
「そうだ。確かルチアだった。それで?僕に何の様なんだい?」
茶髪に巻き毛のチャーリーは姉の同級生で、以前から姉にジェイクという婚約者がいるにも関わらず、好意を寄せていた学生である。
「チャーリー様。単刀直入に尋ねます。まだ、お姉さまの事が好きですか?」
「はあ?!」
チャーリーは目を見開いて私を見る。
「え?え?い、一体何を……っ」
チャーリーは真っ赤になって俯いた。よし……この反応は脈ありだ。
「分かりました、みなまで全部聞きません。その態度を見れば貴方がまだお姉さまを好きな事はよーく理解しました。よろしい、ではお姉さまとデートさせてあげましょう」
私は腕組みした。
「え?ちょっと待ってよ。一体どういうことなの?」
「チャーリー様、ジェイク様の事……人として、男としてどう思いますか?」
「い、いきなりの質問だな。彼は……許せないよ」
その言葉を聞いて私は歓喜した。
「ええ、そうですよね?ちなみにどんなところが許せないですか?」
「そりゃ……あんなに素敵なリリアンが婚約者だっていうのに、浮気ばかりして……」
「ええ、ええ。そうなんですよ。ジェイク様が婚約者なんてあまりに姉が不憫すぎます。姉には本当の恋を知って欲しいんですよ。そこで白羽の矢が立ったのが、貴方!チャーリーさんですっ!」
私はビシイッとチャーリーを指さした。
「おれ……?僕があっ?!」
「ええ、私がお二人のデートのセッティングをしますので今日は学食でまず2人きりでテラス席で食事を取ってください。その後、放課後はデートです。姉は美術館巡りが好きです。こちらに2名分の入場券があります。是非楽しんできてください。そのあとの事は……自力でお願いしますね」
バシッと入場券をチャーリーの胸元に叩きつけると、彼は戸惑いながらも受け取った。
「いいのか?僕が受け取っても?」
「ええ。勿論です。ではランチは『テラスカフェ』にいらして下さいよ?もちろん座席はテラス席ですからね?」
そして私はあっけにとられるチャーリーを残し、スキップしながら自分の教室へと向かった――。
そして昼休み――
私はお昼を一緒に食べに行こうと呼び止めるセルジュを無視して3階にある姉の教室へ猛ダッシュで向かった。
ガラッ!
姉のいる教室を乱暴に開けると、ちょうど姉が友人たちとランチに行こうとしているところだった。
「あら、ルチアじゃないの?どうしたの?」
「お姉さま!今日は私と一緒にランチへ参りましょう!」
姉の右手をムンズと握りしめると、友人たちに挨拶する。
「お姉さま方、申し訳ございません。しばらくの間は姉のランチの時間をお借りしますね!」
そして頭を下げると姉を連れてズンズンと歩きだした。
「ルチア、これは一体どういうことなのかしら?」
姉の顔には戸惑いが浮かんでいる。
「ごめんなさい、お姉さま。これも全てお姉さまの幸せの為なのです」
「え?幸せ?」
姉は首をかしげながらも頷いた。
「そうなの?ありがとう。ルチア」
振り向くと姉は天使のような笑顔で私を見た。
くう~……な、なんて美しい笑顔なのだろう。やっぱりあの屑男に姉はもったいない!絶対に婚約破棄させてやるんだから。
その為には、まず姉には本当の恋を知ってもらわないとね。
姉の手を引きながら、私は1人ほくそ笑むのだった―。
「さあ、お姉さま、座ってください」
私は予約席の札を外した。
「ええ、ありがとう。ルチア。でもまさかテーブル席を要約していたなんて知らなかったわ」
姉は感心している。
「いえ、それほどでも」
実はこの店は生徒たちに大人気のカフェなのだ。毎回席の争奪戦になるのだが、私はこの席を確保する為のある特殊なルートを持っている。そのルートを明かすわけにはいかないが、私にとっては座席を押さえること等、造作もないのである。
私たちがテーブル席に着き、メニューを眺めていると……。
「こ、こんにちは!」
緊張気味に声を掛けられ、2人で見上げるとそこには緊張でカチンコチンに固まっているチャーリーの姿があった。
「あら、チャーリー様。こんにちは」
姉は優雅に微笑む。
「あ、あの……この席、す、座ってもいいかな?」
真っ赤になったチャーリーに尋ねられた私は姉が答える前に素早く返事をした。
「ええ、勿論です。どうぞこの席にお座りください。私は退席しますので、後はどうぞお2人でお食事を楽しんで下さい」
そして立ち上った。
「あら?ルチア。それで貴女はいいのかしら?」
「ええ、お姉さま。それではチャーリー様。どうぞお姉さまの事……よろしくお願いしましね。オホホホ……。では失礼致します」
ペコリと頭を下げた私はそそくさとその場を退散した――。
午後の授業も終わり、屋敷に帰った私は驚いてしまった。何と姉がサンルームでお茶を飲みながら読書をしているのだ!
「お・お・お姉さま!な、何故ここにいるのですか?!」
慌てて駆け寄り私は姉に尋ねた。
「あら、お帰りなさい、ルチア。随分遅かったのね?」
「ええ、ちょっと居残りを……って、そんな事はどうでもいいのですっ!何故お姉さまはこちらにいるのですか?!チャーリー様はどうなさったのですか?!」
「ああ……チャーリー様ね?実は……」
姉は何があったか説明した。
あの後、2人で昼食後にチャーリーが美術館のチケットを見せながら姉を誘った。姉が返事をしようとした直後にジェイクがノーラ嬢を伴って現れたのだ。するとすぐにチケットに注目し、ジェイクは自分たちにチケットを譲れと言ってきた。
そして当然爵位の高いジェイクに歯向かうわけにもいかず……。
「チケットを取られてしまったのですかぁっ?!」
「ええ、そうなのよ。チャーリーさんには悪いことをしてしまったわ」
姉は申し訳なさそうにしている。私は呆れて空いた口がふさがらなかった。
おのれジェイクめ。そこまで性根が腐った男だったのか。
あのチケットを手に入れるのに私がどれだけ苦労したと思っているのだ?!
「それで……チャーリー様はジェイク様に脅されてしまったのよ」
「脅された?!どんな風にっ?!」
「ええ。仮にもリリアンは俺の婚約者だ。婚約者のいる女性に手を出すとはいい度胸だと」
「はああっ?!な、な、何なんですかっ?!その話!自分の事は棚に上げて、よりにもよってチャーリー様を脅すなんてっ!」
そして私は身をひるがえし、再びエプロンドレスに着替えると倉庫へ行って自転車を引っ張り出し……一目散にジェイクの屋敷へと向かった。
「何だ?またお前が来たのか?」
門の前に立つジェイクは機嫌の悪そうな態度を隠そうともせずにじろりと私を睨みつけた。
「そんな事よりも、早く返してくださいっ!」
私は右手を突き出した。
「返す?何を?」
「しらばっくれないで下さいっ!私がどれだけ苦労してあのチケットを手に入れたと思ってるんですか!」
するとジェイクはニヤリと笑った。
「ははあ~ん。さてはお前の差し金だったのか?」
「何の事ですか?」
「とぼけるな。チャーリーをたきつけてリリアンと恋仲にさせて婚約を破棄させようとしただろう?その手には乗るか。チケットは別の奴にやったよ」
「く~!な、なんて卑怯な……!」
拳を握り締めた私はこのままジェイクを見ていると殴りつけたくなる衝動に駆られるので帰ることにした。
「お、覚えていて下さいよ!絶対に婚約破棄させてやりますからっ!」
「おう、出来るもんならやってみろ!」
「べ~っ!!」
思い切りあっかんべえをすると、私は自転車に乗って一目散に岐路へ着いた。
オレンジ色の太陽に照らされた景色を走りながら心に誓った。
絶対にこのままではすまさないからね―ーっ!!
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