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☆
「姉貴……お前の母ちゃんに呼ばれて来たけど、相変わらず何言ってんのかサッパリでなぁ」
おじさんは、アイスコーヒーにミルクを入れて混ぜた。
ボクは、お説教に備えてグッと気合を入れる。
「……俺、なんで呼ばれたの?」
「そこから⁈」
ボクはラクト。千葉県の中二男子。
カフェの向かいの席でアイスコーヒー啜ってるのは、ママの弟・勉おじさん。北海道の高校で国語教師をしている。
国語教師でも、ママの言うことは理解不能なんだ…ちょっとガッカリした。
ママは、ボクが買って来たお菓子を「マズそう」だの「こんなのよく食べる気になるね」だの言ってたのに、ママの分を残しておかないと怒ったりするのだ。わけがわからない。
そんなママに呼ばれて夏休みの最中に北海道から千葉まで来た勉おじさんだけど、ホントなんでママは呼んだのかなと思う。
頭ボサボサなのはママの家系の猫っ毛だから仕方ないとしても(ボクもそうだ)、ひどい無精髭に、シワだらけの縞シャツ。しかも、なんで呼ばれたかわかってない。ダメな大人だ。
こんな人に話して、大丈夫かな?
ボクは、周りの人たちに見えないように、スマホの自撮り写真をおじさんに見せた。
おじさんは画面を見て、ボクを見た。
「姉貴が送って来た写真より写りがいいな。自分の見せ方がわかってる」
「ホント⁈ ありが……ありがとう」
褒められて嬉しい気持ちは、すぐに萎えた。
好きだったこのフレアスカートは、もうないのだ。
おじさんに見せたのは、女装したボクの自撮り写真だ。お小遣いとお年玉でコツコツ買ったコーディネートだった。
コレを撮った直後に、勝手に部屋に入って来たママに見つかって、大騒ぎになった。
ママは、変態だとか息子がオカマになったとかアンタは男でしょとか言って泣き、ボクのスカートを引っ張って破った。
パパはママを鎮めるのに精一杯で、あの時からボクは話ができてない。
「ママ大泣きして、その時のボクの服ぜんぶ捨てちゃって……悲しかったけど……自分でも、やっぱりコレは変なことかなって……捨てるの、止められなかった。
ママは、ボクにあんなことしないように説得してほしくて、勉おじさんを呼んだんじゃないかな」
「説得ねぇ…無茶言いやがる」
おじさんは空のグラスをなんとなく混ぜながら、ボクを見た。
「たまに会うだけの親戚のオッサンに説得されて済むようなことなら、今そんな悩んだ顔してねぇだろうに」
ドキッとした。
自分でも、この気持ちが何なのか、よくわからなかった。
なんでこんな格好したいのか。ただ普通と違う服を着たいだけなのか、女の子の服が好きなのか、女の子になりたいのか。何度も悩んだ。
ボクは、スカートをはくことで何になりたいんだろう。
わからないまま、今回の騒ぎになった。
ボクの中でぐちゃぐちゃしてたものが、涙と一緒に溢れそうになった。
「おじさん……ボク」
その時、おじさんがアイスコーヒーのグラスを派手にひっくり返した。
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